【芭蕉自筆影印】
貴墨辱(カタジケナク)拝見 御無事之由 珍重奉存候
其元滞留之内 得閑語(カンゴヲエ)候而 珍希覚申候
一 愚句其元二而之句
辛崎能松ハ花与り朧丹て
と 覚可被下(オボエクダサルベク)候
山路来て何やら由可しす三禮草
其外五 三句も有之候へ共 重而(カサネテ)書付可申候
一 此秋 此萩之あらそひ 尤(モットモ)此道 是非をあらそふも道のひと川二而御座候へ共 あな可ち二口論を好(コノム)事 愚意好しからす候間 兼而(カネテ)能(ヨキ)程二御あらそひ御尤候
一 其角へ御状 重而返状可仕(ツカマツル)候
嵐雪他国へ罷(マカリ)候間 不及貴報候
何やら可やらいま多取込 旧友久ゝ咄共指(ハナシドモサシ)つもり 手透(テスキ)無御坐 貴報早ゝ及候
一 渋谷与茂作殿御堅固二相見え候
御手跡見覚候 以上
五月十二日 芭蕉桃青
千那貴僧(大津・本願寺別院)
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貴墨辱(カタジケナク)拝見 御無事之由 珍重奉存候
其元滞留之内 得閑語(カンゴヲエ)候而 珍希覚申候
(辛崎滞留時の御礼)
一 愚句其元に而之句
辛崎の松は花より朧にて
と 覚可被下(オボエクダサルベク)候
(推敲した結果を、報じた)
山路来て何やらゆかしすみれ草
其外五 三句も有之候へ共 重而(カサネテ)書付可申候
一 此秋 此萩之あらそひ 尤(モットモ)此道 是非をあらそふも道のひとつに而御座候へ共 あながちに口論を好(コノム)事 愚意好しからず候間 兼而(カネテ)能(ヨキ)程に御あらそひ御尤候
(千那の句が大津連衆で論争有)
一 其角へ御状 重而返状可仕(ツカマツル)候
嵐雪他国へ罷(マカリ)候間 不及貴報候
(嵐雪への手紙は届かない)
何やらかやらいまだ取込 旧友久ゝ咄共指(ハナシドモサシ)つもり 手透(テスキ)無御坐 貴報早ゝ及候
(閑なし 早々に失礼)
一 渋谷与茂作殿御堅固に相見え候
御手跡見覚候 以上
五月十二日 芭蕉桃青
千那貴僧(大津・本願寺別院)
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