桑名・木因宛書簡 江戸

【芭蕉自筆影印】

尚ゝ濁子丈
御隙無御坐(ゴザナク) 出合断切 作意も上り 遠路貴墨 不申 気の毒ニ存候
干白魚一箱被 嗒山丈御油断奈く 御意 誠御心指(ニオココロザシ) 御情ニ被入候様ニ 御懇情 辱(カタジケナク) 奉存候
貴翁御指引御尤(ニ)奉存候
愈(イヨイヨ) 御無異之旨 且又白魚之書付 珍重不之(コレニスギズ)候
野翁 風流猶感心
恙(ツツガナク)閑居ニ 過當之至ニ存候
暮(クラシ)罷(マカリ)有候
其元(ソノモト)御暇奈き折ゝも 人ゝ御すヽめ被成之(ナサルルノ)由 感心不残(浅)存候
愈 御情入(ゴセイイレラレ) 御連中御引立可成(ナサルベク)候
荊口丈御作奈とハ 如何共可成(ナルベキ) 御器量ニ 相見え候
山丈 御作い可ゝ成行申候哉 是又 承度候
且 貴翁 御發句感心仕候
猫を釣夜 其気色眼前ニ覚候
土筆(ツクシ)をしそ 是猶妙 御作意 次第改る様ニ被覚珍重 兎角 日ゝ月ゝニ 改る心無之候而ハ 聞人もあくミ 作者も泥付事尓御座候へハ 随分御心乎被留 人ゝ御いさめ可成候
一 當春付句懸
御目候處 御評 具(ツブサ)ニ 致拝見大慶 不浅義ニ御座候
其返事 濁子丈? 先達而(センダツテ) 申通し候間 追而 相達(アイタツシ)可申候
當春之句共
 梅柳嘸(サゾ)若衆哉女哉
上巳(ジヤウシ)

袖よこすらん田螺乃蜑の隙を奈ミ

あさつき丹祓(ハラヘ)やすらん桃の酒 其角
梅咲り松盤時雨丹茶を立る比 杉風
桜可り遠山こぶしう可礼多る 嵐蘭
主悪(ニク)し桃の木丹竿毛多世多る 同

艶奴(エンナルヤッコ)今やう花丹らうさいス    愚句

御使ま多せ置 貴報相認候故 早筆ニ及申候
唯今 桑名ニ御滞留之由 會(クワイ) 成候ハゝ 懐帋御見せ可成候
来る卯月末 五月之比ハ 必上り候而  可御意
啓首    芭蕉翁
  三月廿日
 木因雅士 貴

尚ゝ濁子丈
御隙無御坐(ゴザナク) 出合断切 作意も上り 遠路貴墨 不申 気の毒に存候
干白魚一箱被 嗒山丈御油断なく 御意 誠御心指(ニオココロザシ) 御情に被入候様に 御懇情 辱(カタジケナク) 奉存候
貴翁御指引御尤(ニ)奉存候
愈(イヨイヨ) 御無異之旨 且又白魚之書付 珍重不之(コレニスギズ)候
野翁 風流猶感心
恙(ツツガナク)閑居に 過當之至に存候
暮(クラシ)罷(マカリ)有候
其元(ソノモト)御暇なき折ゝも 人ゝ御すヽめ被成之(ナサルルノ)由 感心不残(浅)存候
愈 御情入(ゴセイイレラレ) 御連中御引立可成(ナサルベク)候
荊口丈御作などは 如何共可成(ナルベキ) 御器量に 相見え候
山丈 御作いかが成行申候哉 是又 承度候
且 貴翁 御発句感心仕候
猫を釣夜 其気色眼前に覚候
土筆(ツクシ)をしぞ 是猶妙 御作意 次第改る様に被覚珍重 兎角 日ゝ月ゝに 改る心無之候而は 聞人もあぐみ 作者も泥付事に御座候へば 随分御心を被留 人ゝ御いさめ可成候
一 當春付句懸
御目候處 御評 具(ツブサ)に 致拝見大慶 不浅義に御座候
其返事 濁子丈も 先達而(センダツテ) 申通し候間 追而 相達(アイタツシ)可申候
當春之句共
 梅柳嘸(サゾ)若衆哉女哉
上巳(ジヤウシ)

袖よごすらん田螺の蜑の隙をなミ

あさつきに祓(ハラヘ)やすらん桃の酒 其角
梅咲り松は時雨に茶を立る比 杉風
桜がり遠山こぶしうかれたる 嵐蘭
主悪(ニク)し桃の木に竿もたせたる 同

艶奴(エンナルヤッコ)今やう花にらうさいす    愚句

御使またせ置 貴報相認候故 早筆に及申候
唯今 桑名に御滞留之由 會(クワイ) 成候はば 懐帋御見せ可成候
来る卯月末 五月之比は 必上り候而  可御意
啓首    芭蕉翁
  三月廿日
 木因雅士 貴














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