かさの記

【芭蕉自筆影印】
 秋の風さ悲し支折ゝ 妙観可刀を可り 竹と梨の多くみを得て 多希をさ起 堂けを堂者めて みつ可ら可さ作りの翁登名いふ 多くみつ多な(拙)希連ハ 日をつくし天ならす こゝろ静な羅さ連者 日を不るにものう(おっくう)し 朝耳可みを志多ゝ免て 可者くをまち天 夕に可さぬ 志ふをもてそゝ支て いろをそ免 うるしを保とこして か多(堅)可羅無事をようす 者つ可(廿日)過る程尓こそ やゝいて支に希連 可さ能者(端)のなゝめ尓 荷葉(蓮葉)な可者(半)飛ら(開)希堂るにゝ多るも お可し支す可多なり希り な可ゝゝ耳きく(規矩)のいみし支よ梨 猶愛すへし 可のさいきやう(西行)乃わ日可さ(侘笠)か 坡翁(ハオウ)
雲天の可さ可 呉天の雪耳徒ゑ(杖)をやひかん みやきの(宮城野)ゝ露尓やぬ連む登 あら礼(霰)尓いそ支 しく連(時雨)にまちて そゝろにめてゝ ことに興す 興のうち尓して に者か(俄)に感するものあり 婦堂ゝ日宋祇の志く礼(時雨)耳 多もと越う流ほし天 みつ可羅可さ乃うちに か支徒希(書き付け)侍梨介らし

よに婦るも更尓そうきのやと梨哉
        

(秋の風さびしき折ゝ、妙観が刀をかり、竹とりのたくみを得て、たけをさき、たけをたばめて、みづからかさ作りの翁と名いふ。たく(巧)みつたな(拙)ければ、日をつくしてならず。こゝろ静ならざれば、日をふるにものう(おっくう)し。朝にかみをしたゝめて、かはくをまちて、夕にかさぬ。しぶをもてそゝぎて、いろをそめ、うるしをほどこして、かた(堅)からむ事をようす。はつか(廿日)過る程にこそ、やゝいできにけれ。かさのは(端)のなゝめに、荷葉(蓮葉)なかば(半)ひら(開)けたるにゝたるも、おかしきすがたなりけり。なかゝゝにきく(規矩)のいみじきより、猶愛すべし。かのさいぎやう(西行)のわびがさ(侘笠)か、坡翁(ハオウ)雲天のかさか。呉天の雪につえ(杖)をやひかん。みやぎの(宮城野)ゝ露にやぬれむと、あられ(霰)にいそぎ、しぐれ(時雨)にまちて、そゞろにめでゝ、ことに興ず。興のうちにして、にはか(俄)に感ずるものあり。ふたゝび宋祇のしぐれ(時雨)に、たもとをうるほして、みづからかさのうちに、かきつけ(書き付け)侍りけらし

よにふるも更にそうぎのやどり哉 )