「宿かりて」

【芭蕉自筆影印】
 志く礼いと侘し氣尓降出侍るまゝ 旅の一夜を求て 炉尓焼火(タキビ)して ぬ連多類袂をあふり 湯を汲て口越うる保すに あるし情有るもて那し丹 暫時客愁のおもひ慰丹似多り 暮て燈火の下丹うちころひ 矢立取出て 物なと書付る越みて 一言の印越残し侍連と 志幾り丹乞(コビ)介礼ハ

 宿可里て名を名乗らするしく礼哉

(しぐれいと侘しげに降出侍るまゝ、旅の一夜を求て、炉に焼火(タキビ)して、ぬれたる袂をあぶり、湯を汲て口をうるほすに、あるじ情有るもてなしに、暫時客愁のおもひ慰に似たり。暮て燈火の下にうちころび、矢立取出て、物なと書付るをみて、一言の印を残し侍れと、しきりに乞(コビ)ければ

 宿かりて名を名乗らするしぐれ哉 )