江戸・曲水宛書簡  義仲寺

【芭蕉自筆影印】 

正秀珍夕両吟 一番出来にて候
一入(ヒトシオ)大悦仕(ツカマツリ)候
珍夕 ひさこ此可多上達 比えの山(比叡山)ニ 本くり(木履)者(履)可世候
御油断被成ましく候
甘塩の鰯かそふる秋のきてと申 第三致て 我を驚しをり候
越人 庵ニ志者し とゝめ置候
  川原涼ミ

 川可せや薄柿着堂る夕涼

 猪の志ゝのもと尓吹るゝ分哉

うつら鳴なる坪の内と云 五文字 木さハしや と可有を珍夕尓とられ候
此辺や婦れ可り候へ共 一筋の道耳出る事か多く 古き句尓言葉のミあ連て 酒くらひ 逗腐(?)くらひなと のゝしる輩のみニ候
 ある智識(高僧)のゝ玉ふ(?宣ふノタマフ)
 
 なま禅 なま佛 是魔界

 稲妻尓さとらぬ人の堂つとさよ

通可守袋ニ入てとらせ度候
其角可 状ニて 路通可 披露仕而(ヒロウツカマツリ) 左様ニ(サヨウニ) 御意得(?オココロエ)被成(ナサレ) 下(クダサルベク)候 
猶追而(ナオオッテ) 可芳慮(ホウリョヲウベク)
   頓首
  九月六日    者世越
 曲水雅伯
   旅窓
正秀珍夕両吟 一番出来にて候
一入(ヒトシオ)大悦仕(ツカマツリ)候
珍夕 ひさご此可かた上達 比えの山(比叡山)に ぼくり(木履)は(履)かせ候
御油断被成まじく候
甘塩の鰯かぞふる秋のきてと申 第三致て 我を驚しをり候
越人 庵にしばし とゞめ置候
  川原涼ミ

 川かぜや薄柿着たる夕涼

 猪のしゝのもとに吹るゝ野分哉

うつら鳴なる坪の内と云 五文字 木ざはしや と可有を珍夕にとられ候
此辺やぶれかり候へ共 一筋の道に出る事か多く 古き句に言葉のみあれて 酒くらひ 豆腐(?)くらひなど のゝしる輩のみに候
 ある智識(高僧)のゝ玉ふ(?宣ふノタマフ
 
 なま禅 なま佛 是魔界

 稲妻にさとらぬ人の堂つとさよ

隠通が守袋に入てとらせ度候
其角が 状にて 路通が 披露仕而(ヒロウツカマツリ) 左様に(サヨウニ) 御意得(?オココロエ)被成(ナサレ) 可被下(クダサルベク)候 
猶追て(ナオオッテ) 可得芳慮(ホウリョヲウベク)候
   頓首
  九月六日    ばせを
 曲水雅伯
   旅窓