大津松もと 尚白宛書簡

【芭蕉自筆影印】

[前部なし]

 襟巻に首引入て冬の月     杉風

 火桶抱てをと可ひ臍を可くし个利
                路通

此作者ハ松もと尓てつれゝゝよミ多る狂隠者 今我隣庵尓有
俳作妙を得多利

 雪こと尓うつ者利ゆ可む住ゐ哉 苔翠

 冬籠又依そ者ん此者しら    愚句

 菊鶏頭切盡し个利おめいこう

句ハあしく候へ共 五十年来 人の見出ぬ季節 愚老可拙(ツタナ)き口尓かゝ利 若(モシ)上人真霊あらハ 我名乎し連 とそわらひ候
此冬ハ物むつ可しく 句も不出(イデズ)候
             以上

  極月五日     芭蕉子

 尚白様
  

  

[前部なし]

 襟巻に首引入て冬の月     杉風

 火桶抱てをとがひ臍をかくしけり 
                路通

此作者は松もとにてつれゞゝよみたる狂隠者 今我隣庵に有
俳作妙を得たり

 雪ごとにうつばりゆがむ住ゐ哉 苔翠

 冬籠又依そはん此はしら    愚句

 菊鶏頭切盡しけりおめいこう  同

句はあしく候へ共 五十年来 人の見出ぬ季節 愚老が拙(ツタナ)き口にかゝり 若(モシ)上人真霊あらば 我名をしれ とぞわらひ候
此冬は物むつかしく 句も不出(イデズ)候
             以上

  極月五日     芭蕉子

 尚白様